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メジャーでない種目を選んだアスリート│フィンスイミング日本代表・日本記録保持者 松田志保

最初に松田志保に会ったのは、約1年半前。
あるブランドの撮影にモデルとして彼女が起用され、ディレクターであった僕は、その現場で彼女から<フィンスイミング>という競技、その置かれている環境などについて少しだけ話を聞く機会を得た。この出会いが、連載『UNDERGROUND ~メジャーでない種目を選んだアスリート~』を企画したキッカケである。連載のトップバッター#001に登場するのは、もちろん……フィンスイミング日本代表・日本記録保持者 松田志保。

フィンスイミングだけの人にはなりたくない

メジャーでない種目を選んだアスリート│フィンスイミング日本代表・日本記録保持者 松田志保

&FLOW(以下、F):お久しぶりです。去年は、ロシアで開催された世界選手権にも出場したとのことですが、コロナ禍での海外遠征はいかがでしたか?

松田志保(以下、M):日本からは私を含めて5名の選手が大会に参加しました。2020年・21年と世界選手権への国内の選考会が行われなかったので、2019年の代表選手が、ロシア大会に出場するか個々が検討するという変則的なものでした。

F:泳ぎ始めたのは、何歳ごろですか?

M:スイミングクラブに通い出したのが小学校2年生ころで、選手コースに入ったのが、3年生の時ですね。そこから、中学・高校とずっと泳いでいますが、しんどい練習が嫌いでした(笑)、速くなりたいのに。でも、大学生になって、自分の責任で水泳をやっているという思いが出てきました。

F:生まれも育ちもずっと関西ですか?

M:そんなことないです、転勤族だったので。生まれたのは福岡ですが、記憶がないのであまり言ってないんです。大阪、千葉、その後が今も実家がある兵庫ですね。千葉にいた時が、プールに通いだしたタイミングです。高校も、大学も水泳での推薦枠で入学しました。その大学生時代(=大阪体育大学)に、ウチのプールに泳ぎに来ていた、有名なフィンスイマーの谷川哲朗さんに出会って、フィンスイミングの興味を持ったんです。

F:でも、そこからすぐにフィンスイミングを始めたのではないんですよね?

M:はい。谷川さんに、「ちゃんと大学水泳を続けなさい」と言われました。なので、最初は谷川さんには、バタフライを習っていました。そして、多くの選手がインカレで大学水泳をやめるのですが、わたしは11月のワールドカップまで続けて、その後に谷川さんのチームに参加しました。

F:水泳からフィンスイミングに転向して、驚きや戸惑いもありましたか?

M:わたしとしては、“転向”という気持ちは全くないんです。あくまで、“両立”していると。それはそれ、これはこれという考えで、“フィンスイミングだけの人”にはなりたくないなと。

F:今も水泳の大会に出場しています。

M:はい、水泳の人たちからは“フィンスイミングの人”と思われがちですが、現在も水泳の選手としても活動しています。

競泳の約1.5倍、フィンスイミングのスピード感に惹かれる

メジャーでない種目を選んだアスリート│フィンスイミング日本代表・日本記録保持者 松田志保

F:フィンスイミングと水泳を両立している理由の中には、フィンスイミングをもっと多くの人に知ってもらいたいという気持ちもありますか?

M:う〜ん、まずは自分が両方やりたいし、両方速くなれると思っているからです。その結果として、フィンスイミングが広まるキッカケになればいいですけど。そもそも、フィンスイミングを始めるハードルが高いので、なかなか簡単には競技人口を増やすというのは難しいと思います。道具を揃えるにもお金がかかるし、練習できるプールも少ないし。だから、競技人口云々より、まずはフィンスイミングを知っている人が増えればいいなと思っています。そして、多くの人に知ってもらうためには、インスタでもYouTubeでも、その入り口は何でもいいなと。

F:道具の面でもハードルが高いのですね。

Mモノフィン(=両足を1枚の大型フィンで固定するタイプ)だと1つで10万円くらいします。フィンはゴム製なので劣化もするし、わたしはまだないですが、フィンが割れてしまうこともあります。

メジャーでない種目を選んだアスリート│フィンスイミング日本代表・日本記録保持者 松田志保
メジャーでない種目を選んだアスリート│フィンスイミング日本代表・日本記録保持者 松田志保

F:ある程度泳げるというベースの上でのフィンスイミングだと、どうしてもスタートする年齢が上がってきますね。

M:はい。神奈中スイミングスクールでは、水泳の選手をやるか、フィンスイミングをやるかという選択コースがあるらしく、神奈中だけは中学生・高校生のフィンスイマーがいて、年齢層が若いですね。

F:フィンスイミングには、2枚のフィンをつけてクロールで泳ぐ「ビーフィン」、シュノーケルを使用する「サーフィス」、潜水する「アプニア」、タンクを持って泳ぐ「イマージョン」などありますが、松田さんが得意なのは?

M:成績として良いのは、ビーフィンです。

F:世界記録を参考にして、水泳の自由形とビーフィンのスピードを比べると、ビーフィンの方は約1.5倍速いのですね。

M:はい。わたしは、“速く泳ぐ”ということに一番の興味を持っていて、フィンスイミングでは、競泳で感じられないスピードを体感できる、それが魅力だと思っています。

フィンスイミングのメジャー化へのキッカケは?

メジャーでない種目を選んだアスリート│フィンスイミング日本代表・日本記録保持者 松田志保

F:これまで出場した世界大会で、どんな国に行っていますか?

M:世界選手権で、ギリシャ・ロシア・中国・セルビア。アジア選手権で、中国・台湾です。あとは、今年の世界選手権でコロンビアに行きます。

F:世界選手権などで集まってくる他国を見ると、フィンスイミングという競技が認知されている印象ありますか?

M:それぞれの国でどのくらいフィンスミングが知られているかは分かりませんが、競技生活をする上で、こんなに苦労しているのは日本ぐらいかなと思います。働きながら、選手生活を送っているのは。韓国は、選手の年俸が決まっているらしいですし、泳ぐことでお金をいただいている人はいっぱいいますね。

F:オリンピック競技になっているか、なっていないかというので、その競技のメジャー感や認知度という部分が違ってくると思いますか?

M:それは、絶対にありますね。ただ、わたしは競技者なので、客観視できないですが、オリンピックの中で、フィンスイミングが単独競技としてあったとしても、観ている人が面白いかは分かりません。競泳の一部として、大会の中に入っていたらいいのかもしれませんが……。観た人から「フィンスイミングの良さが分からない」と言われたこともあるんですよね。そういう意味でもフィンスイミングがオリンピック競技になった方がいいのか、よく分からないというのが正直なところです。

F:これは勝手な意見なのですが、北島康介さんが率いたチームが参加したISL国際水泳リーグなどは、新たな発想で運営されています。あのような大会にフィンスイミングが入ったら面白そうだなと。

M:男子のモノフィン競技だと15秒とかで50mを泳ぐので、その迫力とスピード感に驚くと思います。


フィンスイミング

2015年〜日本代表
日本選手権 50m・100m CMASビーフィン7連覇
12種目の日本記録を保持
2015年アジア選手権 50mビーフィン 銅メダル獲得
2017年アジア選手権 50m・100mビーフィン 銅メダル獲得
リレー含め5つのメダル獲得
2018年世界選手権50mビーフィン7位入賞
5種目で決勝進出

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Kazu

Kazu

Creative Director

松下和裕 / 横浜生まれ・鎌倉在住。長年、ストリートからハイエンドファッション、ライフスタイル、ビーチカルチャーまで様々な雑誌の編集長・副編集長を務める。現在は、Web&動画も含めた幅広いコンテンツを手がける。趣味は、サーフィン・アメ車・革ジャン・音楽・ワンコ。

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