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「電動車椅子サッカー」の選手が扱う車椅子をメンテナンスの立場から支えるジヤトコの競技にかける想い

ジヤトコ株式会社

電動車椅子サッカーをご存じでしょうか?
電動車椅子を使った「足で蹴らないサッカー」として、自立した歩行ができない方も参加できるスポーツです。中には上体や首の保持ができないほど重度の障がいを持つ選手もいますが、手や口、足、顎などを使ってジョイスティック型のコントローラーを操作し、車椅子と一体になったプレーを披露します。車椅子を360度ターンさせ、前方に取り付けたガードでボールを蹴りだすプレーは電動車椅子サッカーならではの豪快かつ繊細さを感じさせてくれる見せ場の一つです。

2023年10月、オーストラリアのシドニーで行われた国際大会の日本チームに、自動車部品メーカーのジヤトコから2名の従業員が派遣されました。ジヤトコは2019年から国内の電動車椅子サッカーの大会において、選手が操る車椅子へのガードの取り付け、取り外しや修理を行う「ジヤトコピット」を設置、50名を超えるボランティアスタッフが選手をメンテナンスの立場からサポートしており、その実績が日本チームへの派遣につながったのです。

大会前の合宿から大会終了まで、選手の大切な電動車椅子をメンテナンスしてきた黒中正道と小笠原良二に、大会の様子や選手とのコミュニケーション、電動車椅子サッカーに対する想いなどを聞きました。

押しかけボランティアから、「なくてはならない」存在に。ジヤトコのサポートが電動車椅子サッカーに必要とされるまで

黒中:私が最初に電動車椅子サッカーに触れたのは2019年、電動車椅子サッカーの全国大会でジヤトコがサポートを開始した時でした。選手の車椅子に取り付けるガードは試合用なので、試合の前後で取り付け、取り外しをしないと移動の邪魔になったり、人にぶつかる可能性があるのです。当時、従業員のボランティアを取りまとめていた役員が、電動車椅子サッカーの大会で何か手伝えることはないか?と事前に練習の様子を見学した時、選手のご家族が苦労してガードの取り付けや取り外しを行っていたのを見て「この作業を私たちでお手伝いしよう!」と決めたそうです。どうせやるならF1レースのように車椅子で選手にピットに入ってもらい、3人の担当者が一気に取り付け、取り外しの作業を行おうと。最初は押しかけボランティアのようだったと聞いています。
今では取り付けや取り外しだけでなく、試合中の衝撃で曲がったガードの修正や、ガードを固定するためのボルトやナットの交換などもしています。大会に「なくてはならない」存在になれたと思っています。

小笠原:私も同時期にボランティアとして参加しました。この競技にはサッカーとしての魅力はもちろんですが、電動車椅子というマシンをチューニングし、セッティングするというモータースポーツに通じる魅力を感じています。私はもともとモータースポーツが大好きでこの会社に入ったこともあり、そういう面からも電動車椅子サッカーに関わることに喜びを感じています。

黒中:大会のサポート実績を買われ、ジヤトコは日本電動車椅子サッカー協会から「10月にシドニーで行われる国際大会にメカニカルスタッフを派遣してほしい」と依頼されたのです。私は試合中にベンチに入り、選手の車椅子の不調に対応する役割です。また、選手と同じホテルに入り、ひじ掛けやヘッドレストの位置などの調整を行っていました。体調によって選手の姿勢も変わってくるので細かい調整が重要になってきます。

小笠原:私は黒中さんのサポートという役割でした。試合中はベンチには入れませんが、試合前後のメンテナンスをお手伝いしていました。また、6月から試合に向けた合宿に参加して選手ごとに車椅子のプログラムセッティングを行い、ボールを飛ばすためにターンする時の回転スピードや車椅子の初速を選手に走ってもらいながら決めていきました。車椅子の手元のジョイスティックでも設定はできるのですが、パソコンをつなげばもっと細かいセッティングができるのです。

世界大会で目の当たりにした、練習量や電動車椅子の知識やセッティングに対する強豪国とのレベルの差

世界大会は2023年10月15日から20日の期間、オーストラリアのシドニーで行われました。世界ランク1位のフランス、2位のアメリカを筆頭に10チームが参加、世界ランク5位で臨んだ日本は残念ながら7位という結果となりました。

黒中:国際試合だけあってオーストラリアとの試合ではアウェイの洗礼を受けました。会場全体がオーストラリアの応援で、ゴールが決まると地鳴りのような歓声が湧き起こります。観客の数も全く違いました。日本ではほとんど関係者しかいないのですが、この大会には学生や一般の人もたくさんいて観客席が埋まっているのです。

小笠原:ヨーロッパではプロサッカーチームの下部団体に電動車椅子サッカーのチームが組み込まれ、練習環境が整っていて、試合数も非常に多いそうです。アメリカも同様に大会の数や選手層の厚さが違うと聞きました。日本だと、電動車椅子サッカーの大会は年に1、2回で選手の練習機会も限られています。大会の中で他の強豪国に対して試合数や練習量の差を感じる場面もありました。

黒中:監督も海外の選手のレベルの高さは予想以上だったと言っていました。他の国を見るまでは「今回の日本のレベルは高いぞ」と思っていましたが、強豪チームの選手はキレが違いました。日本の選手はパスを受けると一旦トラップして周りを確認してから次につなぎますが、強豪国の選手はパスを受ける前に周りを確認し、ダイレクトでパスをつないでいました。

小笠原:練習量の差ですね。

黒中:電動車椅子の知識やセッティングにも差を感じました。会場での待機場所で隣になったフランスチームのエンジニアと身振り手振りで交流し、非常にフランクにいろいろなことを教えてもらいました。残念ながら「教え合う」のではなく、「教えてもらう」ことばかりでした。例えばタイヤについてです。日本チームはタイヤの中にウレタンが入った「チューブレスタイヤ」を使っているのですが、フランスチームは一般的な自転車のような空気を入れるタイヤを使っていて、空気圧の調整によりスピードが調整できるそうです。それを一緒に見ていた選手も「自分の車椅子のタイヤもフランスのようにしてほしい」と言い出しましたね。

サポートを続ける決意と、認知拡大への想い。世界大会で培った選手への思い入れと「一生懸命」やることの大切さ

黒中:日本チームは今回初めて試合におけるメカニカルスタッフとして私をベンチに入れました。監督や医療スタッフも含めてベンチに入れるのは5人だけです。これまではメカニカルスタッフがいなかったため、試合直前や試合中に電動車椅子に何かあると手の打ちようがなかったのですが、私がいることで「何かあっても応急処置をして試合に戻れる安心感を選手が感じている」と監督に言っていただけました。ボルトの緩みを直すだけでも、これまではコーチや選手自身がやらねばならず試合に集中できなかったそうです。そういう意味でも役に立つことができたのではないでしょうか。

小笠原:私は応援席から試合を見ていましたが、日本チームに比べて海外の強豪チームはチーム内でも厳しい声が飛び、審判への抗議も激しかったです。抗議をすることがいいことだとは言いませんが、日本チームは少しおとなしかったですね。

黒中:それでも試合前の選手の中にはピリピリして話しかけられない雰囲気になっている人もいます。それを見て遠慮している私を違う選手がリラックスさせようとしてくれる。そういうところも含めて「人として」尊敬できる選手たちでした。日本チームに同行する中で、最初は離れていた選手との距離が縮まっていきました。選手独特の話し方や強いこだわりについて徐々に理解できるようになると、選手の気持ちや頑張りが見えてくるようになったんです。「この人たちに自分は何ができるんだろう」という気持ちがどんどん強くなってきました。

小笠原:今回の大会では、各チームは重度の障がいを持つ選手を2名、軽度の障がいを持つ選手を2名の計4名を試合に出さなければなりません。日本チームには重度の障がいを持つ選手が4名いて、交代で試合に出ることになっていたのですが、その中の2名が体調不良で4日目から試合に出られなくなってしまいました。重度の障がいということで体力的に厳しいため本来なら試合の中でこまめに交代がなされるのですが、3日間の計5試合を残った2人の選手がフル出場しなければなりませんでした。最終戦を終えた後、疲労困憊だろうと心配しながら会いに行ったのですが、2人の選手の顔がとても輝いていたんです。その顔に「使命を果たした達成感」を見ることができ、純粋にスポーツにおける感動を覚えました。何事も「一生懸命やる」のが一番だと思うんです。「一生懸命やればだれでも成長できる」と改めて教えてもらいました。最後に選手から気持ちがこもった「ありがとう」の言葉をもらったときには本当に感激しました。

黒中:空港で別れるとき、ウルっときてしまいました。

選手の要望を聞き、選手の思う車椅子に仕上げる。日本の課題は競技に対するサポートが不足していること

国際大会から一カ月、2人はこれからも電動車椅子サッカーのサポートを続けると決意するとともに、もっとこの競技が認知され、拡がってほしいと思い始めたようです。

小笠原:国際試合に行って、一番感じたことは「日本はまだまだこの競技に対するサポートが足りない」という事です。国や企業からのサポートやプロサッカーチームの下部組織が組織されることなど、競技を費用面で支えるサポートは切実な問題です。そのためにはもっともっと電動車椅子サッカーの事を広く知ってもらう必要があります。アピールの方法も大事ですよね。

黒中:日本は今回、クラウドファンディングで参加しましたし。

小笠原:私は今回の経験から、ジヤトコのボランティアと選手のコミュニケーションの懸け橋になりたいと思いました。また、タイヤの空気圧によって、車椅子の性能がどう変わるかいろいろと試してみたいと思います。ほかにも空力や風の流れによるモーターの冷却についても研究したいと思っています。そして電動車椅子サッカーがパラリンピックの競技になるまではサポートを続け、見届けたい。

黒中:海外の選手の電動車椅子と日本の選手の車椅子は見た感じは大きな違いはないんです。という事は、次は制御プログラムの解析による設定が重要になってくるんだと思うんです。でもこれはかなり難しいんですよね。私たちだけではなかなか。
私はこれからも選手の要望を聞き、選手の思う車椅子を仕上げることを続けたいと思います。時間をかけて。選手は車椅子を「シーティング」と称して自分の体に合うように部材を付けたりしていろいろと工夫してセッティングしているんですが、これをお手伝いしたい。選手と対話をしながらじっくりと作業させてもらい、満足のいくシーティングが完成したらいいですね。

出典:PR TIMES STORY
https://prtimes.jp/story/detail/bKo43Oizgzb
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Daiki

Daiki

Chief Editor

高橋 乃希 / Webディレクターとして、数多くのサイトやWebメディアの制作・運用を経験。スポーツシーン・キャンプ・アウトドアへの関りも深く、「&FLOW」の編集長に抜擢。★ 野球、格闘技、ゴルフ、ランニング、自転車

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